2013年3月7日木曜日

放射能とヨシ焼き

3月11日と言う日は、多くの日本人にとって忘れる事のできない日になった。今年は東日本大震災の二年目となる。2012年3月11日は、震災とそれに伴う東京電力の福島第一原発原子力発電所事故後に、多くの人達が避難生活や放射能汚染との対応のために無我夢中で過ごした一年目の終わりであった。2013年3月11日を迎えるにあたりこの一年の出来事を振り返ると、民意に反しての大飯原発の再稼働、政権の交代、福島県で3人の子供が甲状腺癌の手術を受けたなど健康被害の顕在化、全国各地で行なわれた震災瓦礫焼却など、健康を守って人生を送りたいと思う人々にとって、非常に困難な一年であった。原子力が人類にもたらす悲劇と言うのは、一度正しく認識してしまうと、忘れる事ができないものである。しかし、日本政府と原子力産業の「嘘、過小化と隠蔽」により、真実をまだ知らない人達も多い。

事故後、二年目となる2013年3月11日から6日後、渡良瀬遊水池のヨシ焼きが3年ぶりに行なわれる事に決定した。そこで、渡良瀬遊水池についての簡単な説明、ヨシ焼きの目的、ヨシ焼きによる放射能二次汚染の可能性と危険性についてまとめた。

http://www.tokyo-np.co.jp/article/tochigi/20130218/CK2013021802000133.html
渡良瀬遊水地 ヨシ焼き来月17日に 3年ぶり実施「連絡会」に主催交代
2013年2月18日
渡良瀬遊水地で三年ぶりに再開されるヨシ焼きが、三月十七日に行われることに決まった。今回からヨシ焼きを主 催する「渡良瀬遊水地ヨシ焼き連絡会」の新会長に決まった鈴木俊美・栃木市長が十七日、同市で開かれた「渡良瀬遊水地ラムサール条約湿地登録記念パネル ディスカッション」の後、取材に答えた。
 ヨシ焼きはこれまで、遊水地を利用する地区の代表者でつくる「渡良瀬遊水地利用組合連合会」が主催し、栃木、埼玉、茨城、群馬の四県にまたがる周辺四市二町の担当職員らで構成する連絡会が共催する形で行われていた。
 だが、東日本大震災や東京電力福島第一原発事故の影響で二〇一一、一二年と中止され、よしずの材料になるヨシや希少植物の育成などに深刻な影響が 発生。周辺自治体と国による協議会がヨシ焼きに伴う放射線の影響を調べ、今月一日に「安全性については問題ない」と再開を決めた。
 協議会会長を務めた鈴木市長は、利用組合連合会からヨシ焼きで何か問題が起きても「責任が取れない」と伝えられたとして、「主催者が利用組合連合会のままでいいのか」と指摘。連絡会の構成員を担当職員から首長とし、利用組合連合会に代わって主催する。
 ヨシ焼きの実施にあたっては、灰が極力飛散しないよう焼く面積を少なくしたり、時間差をつけて火入れしたりするほか、火入れの前後に遊水地の空間線量率のモニタリング調査をすることが決まっている。(稲垣太郎)

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渡良瀬遊水池は、2012年7月3日にラムサール条約登録湿地に決定した、足尾鉱毒事件による鉱毒を沈殿させ無害化することを目的に渡良瀬川下流に作られた遊水池である。埼玉、栃木、群馬、茨城の4県にまたがり、土地のほとんどは栃木県にある。




薄緑の部分が渡良瀬遊水地

ラムサール条約は、国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)の一部である。日本語での正式名称は「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約」であり、水鳥を食物連鎖の頂点とする湿地の生態系を守るのが目的である。

渡良瀬遊水池をラムサール条約登録サイトにしようと言う動きは、2006年に地域住民によって立ち上げられ、去年の7月にやっと登録が決定された。ラムサール条約登録のメリットに関しては、このような記述を「渡良瀬遊水池を守る利根川流域住民協議会」のサイトで見つけた。
http://www.watarase-kyougikai.org/about/ramsar.html


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渡良瀬遊水池では、毎年3月中旬から下旬にかけて、ヨシ焼きが行なわれて来た。




過去に行なわれた渡良瀬遊水地・ヨシ焼の動画
http://www.geocities.jp/nekko3rays/d_yoshiyaki.html

宇宙研究開発機構によると、このヨシ焼きの規模というのは、衛星画像でも変化が確認できるほどである。
http://www.eorc.jaxa.jp/imgdata/topics/2005/tp050401.html




図1はヨシ焼きが行われる前、3月21日のMODISにより観測された関東地方の画像、図2は3月27日のヨシ焼きがまさに行われている時間の観測画像、 図3はヨシ焼きが終わった後、3月31日の観測画像です。左右に伸びる細い線のように見えるのは利根川で、画像の中心からやや左上に見える一角が渡良瀬遊水地です。画像で緑色に見えるのは植物が生えている部分で、図を比較してみると、渡良瀬貯水池(谷中湖)の北側が図1では薄い緑色に見えますが、図2では 黒くなり、図3ではさらに黒い部分が大きくなっています。この黒い部分はヨシ焼きで焼けた部分と思われます。

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2012年1月の下草の試験焼却では、焼却灰から780 Bq/kgの放射性セシウムが検出された。この時は、灰が約15 km先まで飛ぶ事を考慮して中止になった。ちなみに、この際の空間線量は、0.28μSv/hだった。http://www.youtube.com/watch?v=jLGKofgnIVI


ヨシ焼きの目的は、新たなヨシの生育を促すためであるが、ヨシ焼きが中止になったせいで、絶滅危惧種の生態に影響が出始めたようだった。「ヨシ刈りで遊水地守れ、「原発」影響野焼き代わり…栃木(2012年3月15日 読売新聞)」という記事によると、「ヨシを刈った場所とそうでな い場所を比較したところ、ヨシを刈った場所では1平方メートルあたりの植物の種類が12.4種だったのに対し、7.3種とほぼ半減」だったそうである。
http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=56100

2013年2月2日の読売新聞記事によると、「遊水地を管理する国土交通省利根川上流河川事務所によると、2年連続の中止で害虫が発生し、ヨシの生育が悪化したほか、ヨシ焼きで日当たりが良くなって育つ希少な草花も減少したと言う。2013年1月に、ヨシや下草の焼却灰の放射性セシウム濃度を測定した結果、最大でも930 Bq/kgで、通常の廃棄物として処理が可能な基準(8000 Bq)を大きく下回り、『安全性に問題はない』と判断して 再開を決めた。」http://www.yomiuri.co.jp/eco/news/20130201-OYT1T01381.htm

2013年の放射線量等の測定結果は下記のようであった。確かに空間線量は2012年に比べて下がっているが、焼却灰の放射性セシウム濃度にはさほど変わりがない。
http://www.ktr.mlit.go.jp/tonejo/oshirase/new/new130201/130215shirashi.pdf




この画像内で、放射能濃度の単位からμ(マイクロ)が抜けている部分があるので、ここに正しく書き出す。

②ヨシ及び下草(乾燥後)に含まれる放射性セシウム濃度
    89~258 Bq/kg (5試料) 平均値139 Bq/kg
    (平成25年1月16日採取)
    (空間放射線量率の高かった箇所から試料採取した結果です)
●この放射性セシウム濃度から計算される外部被ばく量は、24μSv/年となり、自然放射線量である約2.4 mSv/年(2,400 μSv/年) に比べ十分小さく安全上題ありません

③ヨシ及び下草(焼却灰)に含まれる放射性セシウム濃度
    550~930 Bq/kg (5試料) 平均値754 Bq/kg
    (平成25年1月16日採取)
    (空間放射線量率の高かった箇所から試料採取した結果です)
●焼却作業中の灰を吸い込んだ場合の内部被ばく量については、1時間の作業で2.8μSvと推定され、自然放射線による年間被ばく量の1/1,000程度と十分小さく、安全上問題ありません。

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渡良瀬遊水池のヨシ焼きによって影響を受ける場所に住む人によると、「地元の関心は、まったくありません。放射能の事なんか皆無と言っていいほど話題にはあがっていません。反対や危険性を訴えてきた人は、すでに自主避難を済ませている人もいるようです。それも個人レベルであって、団体での活動は一切ありません。」と言うことである。専門家の、焼却灰に含まれるセシウムに対しての、「公衆に対する線量限度である1mSv/年を下回りますので特に心配する必要はないと考えられます。」と言う見解を信じきっている人がほとんどだと言う。

「線量限度」と言うのは、あくまでも発癌リスクに基づいて決められている。煙を吸うだけ でも呼吸器系に良い影響ではないが、その煙に放射性物質が含まれている可能性があるなら、さらに健康に良いと言えない。癌にならなくても、健康被害は多くある。「線量限度を下回りますので特に心配する必要はない」と言う専門家が何を心配しなくても良いと言っているのかを、考える必要がある。

2013年になって、ラムサール条約登録で拍車がかかっているためだろうか、どうしてもヨシ焼きを再開することになったようである。

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1986年のチェルノブイリ事故によって放射能汚染を受けた地域においては、森林火災による放射能二次汚染の問題が指摘されている。

“Vegetation fires, smoke emissions, and dispersion of radionuclides in the Chernobyl Exclusion Zone”「チェルノブイリ立入禁止区域での森林火災、煙の放出と放射性物質の拡散」と言う英語研究論文から抜粋する。

元論文 http://t.co/bm2vdAMHAe
抜粋和訳 http://fukushimavoice.blogspot.ca/2013/03/blog-post_7.html

「森林や草地の火事は、0.04−0.07 μmと0.1−0.3 μmの、2種類のサイズ範囲での微粒子を生じる。チェ ルノブイリでの森林火災実験一カ所と草地火災二カ所の近くでのストロンチウム90、セシウム137、プルトニウム238とプルトニウム239+240の大 気浮遊物放射能レベルは、 空間線量より何桁も大きいというのがわかっている。大気輸送モデルからの推定では、森林火災による放射性物質の大気への放出の割合は小さかった。」

また、実験火災とリアルタイム火災のデータをまとめた、ウクライナ農業放射線学研究所による2000年研究論文 ”Forest fires in the territory contaminated as a result of the Chernobyl accident: radioactive aerosol resuspension and exposure of fire-fighters” 「チェルノブイリ事故によって汚染された地域での森林火災:放射性エアロゾル再浮遊と消防士の被ばく」によると、乾草地の実験火災によって生じた放射性セシウムの約45%は、1.8 μm以下のエアロゾル粒子であった。(下記の図参照)

元論文 http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0265931X00000825
抜粋和訳 http://fukushimavoice.blogspot.ca/2013/03/blog-post_9331.html



この図に関して、白い棒で表示されている、リアルタイムの森林火災から生じた放射性エアロゾル粒子のサイズ分布について、論文内で次のような供述がある。

「リアルタイム火災において、セシウムがほとんど大きなエアロゾル粒子に付着しているのが分かる。この理由の可能性としては、微粒子が火災時の大気フラックスによって遠くに運ばれてしまった反面、大きな粒子が主に測定が行なわれていた場所に沈着したからかもしれない。」

これは、遠くに運ばれた微粒子は察知されていないと言う事に過ぎないのではないのか?

2012年の下草焼却実験で灰が約15 kmまで飛ぶ事が分かっているにしても、その飛灰内の放射性セシウムの形状が、実際に放射性セシウム濃度が測定された焼却灰においてと同じではなく、もっとサイズが小さい微粒子の可能性がある。

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東京都環境研究所によると、下記のグラフに記されているように、野焼きによって超微粒子物質のPM2.5の大気中濃度が上昇するのが知られている。http://www.tokyokankyo.jp/kankyoken_contents/research-meeting/h23-01/2302-pp.pdf


PM2.5は、最近中国での濃度が急上昇して、日本にも大気と共に浮遊してきていることで話題になっている。





ウクライナの乾草地の実験火災で明らかにPM2.5の放射性物質が放出されるのがわかっており、東京都環境局の調査では野焼きからPM2.5が発生するのも分かっている。放射能汚染されたヨシが焼かれた場合、放射性物質がPM2.5として放出されると考えるのは、ごく自然であり論理的ではないか?そして、中国から日本にPM2.5が飛んで来るのなら、ヨシ焼きから生じる可能性があるPM2.5も国外へ飛んで行くと考えられる。現に、米国西海岸では、中国からのPM2.5や他の大気汚染物質が検出されている。

「専門家」が、「焼却作業中の灰を吸い込んだ場合の内部被ばく量については、1時間の作業で2.8μSvと推定され、自然放射線による年間被ばく量の1/1,000程度と十分小さく、安全上問題ありません。」と述べているが、内部被ばくに関しては、線量評価や自然放射線からの被ばくとの比較は、実際に体内で起こりうる現象を正しく反映していない可能性が大きい。ましてや、PM2.5が放射能を帯びている場合、体内でどのような影響を及ぼすかは、明らかにされていない。

チェルノブイリでは、森林火災による放射能汚染拡大を防ぐために、見張り台や偵察機でのパトロールによる早期発見など、できる限りの手を尽くしている。しかしながら、日本では震災瓦礫を焼却し続けており、今度はヨシ焼きを行なうというのだ。

震災瓦礫広域処理反対活動に従事されている環境ジャーナリストの山本節子さんのブログ記事で、ヨシ焼きが行なわれる付近に多数の学校がある事が指摘されている。
http://wonderful-ww.jugem.jp/?eid=727


震災瓦礫の広域処理での焼却の際には、その効能について色々と議論があるにしても、放射性物質のためのフィルターが使われる。野焼きとなると、何が出ても垂れ流し状態となる。渡良瀬遊水池が放射能汚染を受けているなら、周辺も同じような放射能汚染があり、住民も放射能被ばくからの影響を受けていると思うのが論理的である。その住民が、ヨシ焼きによって、さらに放射能被ばくを受ける可能性がある。しかもPM2.5という、中国からの大気汚染によって、日本政府からも健康被害が出るとお墨付きの超微粒子によって、である。

渡良瀬遊水池のヨシ焼きは、実施するべきではない。行政が守ろうとしているのは、「水鳥を食物連鎖の頂点とする湿地の生態系」のようだが、それは、人間や動物の健康を犠牲にしてまで行なわれるべきだろうか。そもそも、水鳥自体、大気中への放射能二次汚染が起こったら、何らかの影響を受けるのではないか?また、放射性セシウムが濃縮された焼却灰が焼け跡に残されるのなら、それは生態系を再汚染することになる。風が強いという地域特性から、その焼却灰が他の場所に飛んで行く事も十二分に予測できる。全く、本末転倒に思える。行政が真に守ろうとしているのは、果たして、Ecology(生態系)かEconomy(経済)なのか。
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万が一、渡良瀬遊水池のヨシ焼きが決行された場合、周囲の住民は防御するべきであろう。

2月26日付けの情報によると、焼却する面積を減らし、火入れ開始時間を「午前8時30分から」と「午前9時30分から」の2区域に分けて実施すると言う配慮はとられているようだ。http://www.city.oyama.tochigi.jp/kanko/kanko/watarase/yoshiyakijissi.html

火入れ時間:黄色8時30分、赤色は9時30分



*下記の情報は、ヨシ焼きによって影響を受ける地域の住民の方から頂いた。

渡良瀬遊水地のライブカメラより、周囲の状況を見る事ができる。
「利根川上流河川事務所|防災/災害情報 ライブ映像」
http://www.ktr.mlit.go.jp/tonejo/saigai/index2.htm
カメラ局一覧
「渡瀬遊水池ライブカメラ・中里ライブカメラ・乙女ライブカメラ・古河ライブカメラ」PM2.5情報。大気汚染物質広域監視システム(そらまめ君)ホームページ
http://soramame.taiki.go.jp/DataMap.php?BlockID=03
サイト内、栃木県(http://soramame.taiki.go.jp/DataHyou.php?BlockID=03&Time=2013022623&Pref=09
09208010    小山市    小山市役所
09204020    佐野市    県安蘇庁舎
09202520    足利市    足利市久保田公園
が比較的周囲に当たる。

風向きは、ざっと見、下記で確認できるかもしれない。
「福島第一原発周辺の風向きマップ(Google Mapsマーカー版) | 2011年3月 東北地方太平洋沖地震 - 国立情報学研究所」
http://agora.ex.nii.ac.jp/earthquake/201103-eastjapan/weather/gpv/wind/marker/

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