『「どこでも、誰でも」簡単にできます!お子様の抜けた乳歯をとっておいていただくだけです!ぜひご参加下さい』
とチラシに書いてある。一体、何に参加することになるのであろうか?
答えは、ストロンチウム90の「グループ測定」である。
ストロンチウム90は、半減期が約29年のβ線放出体であり、カルシウムと化学的類似性を持つために、骨や歯に蓄積しやすい。体内に摂取されると、一部は排 泄されても大部分が骨や歯に取り込まれて、体内でβ線を出し続ける。娘核種のイットリウム90は半減期が64時間と短く、同じくβ線を出して安定したジル コニウム90となる。ストロンチウム90は、比較的長い半減期のため、放射線を長期間にわたって出し続けるため、毒性が強い。
2012年9月3日に、東洋経済オンラインに次の記事が掲載された。
「歯科医師が子供の乳歯提供を呼びかけ 目指すはストロンチウムによる被曝解明」
http://toyokeizai.net/articles/-/9880?page=1/
子 どもの乳歯提供を 呼びかけているのは、千葉県松戸市で歯科医院を営む藤野健正・きょうどう歯科新八柱所長(医療法人社団きょうどう理事長=写真)。福島第一原発の事故後、 福島県内で歯科医療支援活動にかかわってきた藤野氏は、カルシウムと似た性質を持つストロンチウムが骨や歯などに蓄積しやすい性質に着目。
「内部被曝の実態を明らかにするうえで重要な証拠になる」との考えから、子どもの歯が生え替わる際の「脱落乳歯」の保存および提供を呼びかけ始めた。
手順は簡単で、藤野氏が用意した調査票に記入したうえで子どもの乳歯を藤野氏の歯科医院宛てに郵送する。藤野氏は一定の数を集めたうえで、米国の専門家団 体 RPHP(Radiation and Public Health Project)に送付。精密な測定機器を持つ同団体が解析したうえで、結果を日本 側に通知する。
保護者の参加費は無料で、氏名などの個人情報は明らかにされない。検査結果については、「集めた地域ごとに解析したうえで、提供いただいた方に封書でお返 しする。ただ、高い値が出た場合は、個別の追跡検査も考えている」と藤野歯科医師は話す。この取り組みは、岡山理科大学の豊田新教授(応用物理学)もバッ ク アップする。
福島第一原発事故では、放射性のヨウ素やセシウムによる環境汚染や被曝が大きな問題になっている。一方、測定がはるかに難しいストロンチウムについては被 曝の実態はまったく調査されていない。ストロンチウムはホールボディカウンターで検出することができず、福島県では県民健康調査の項目にも上がって いない。
そうした中で、藤野歯科医師は「原発近くに住んでいた人および離れた地域に暮らす人がともに協力してくれるタイミングは今しかない」と判断。藤野氏 自身が副会長を務める東京歯科保険医協会や全国保険医団体連合会の協力も得つつ、取り組みを進めていくという。すでに、福島県浪江町から東京都内に避難し てきた家庭が多く住む共同住宅や松戸市内の保育園などで説明会をスタートさせている。
1950~60年代の度重なる大気圏核実験で放出されたストロンチウムが粉ミルクや母乳などを通じて乳歯に蓄積したことは、当時の科学者の手で解明され た。ストロンチウムによる健康被害は未解明な部分が多いものの、米国では母親たちによる乳歯を集める活動がその後、核実験を抑止する原動力になったといわ れる。歯科医師による日本で初めての取り組みに注目したい。※問い合わせ先は、きょうどう歯科新八柱 TEL047−711−5201
(岡田広行 =東洋経済オンライン)
藤野歯科医師の「内部被曝の実態を明らかにするうえで重要な証拠になる」との考えは、聞こえは良いが、一体どのような実態を明らかにするつもりなのだろうか?内部被ばくをしたと言う事実?それとも、内部被ばくの度合い?
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米国ミズーリ州セント・ルイス市では、1951年に始まった大気圏内核実験時代に、6万人の子供の乳歯に含まれるストロンチウム90濃度の測定を行なった。 1964年生まれの子供よりも、1954年生まれの子供の乳歯の方が、ストロンチウム濃度が高かった。1963年には大気圏内核実験が禁止され、1964 年から1970年にかけて、乳歯内のストロンチウム90濃度が下がった。
2012 年9月3日の東洋経済オンラインの記事内に出て来る、「米国の専門家団体RPHP (Radiation and Public Health Project)」は、2000年に発表された研究で、米国の数カ所の原発付近に住む子供達の乳歯のストロンチウム90濃度を測定し、大気圏内核実験禁止 後の乳歯のストロンチウム濃度の低下率から推測した濃度よりもはるかに高い事を発見した。
http://www.radiation.org/reading/ijhs/ijhs_9_2000.html
乳歯は胎生6~8週の間に発生を始め、永久歯は胎生20週目から発生を始める。故に、ストロンチウム90は胎児において既に歯に取り込まれる可能性がある。
原発付近に住む子供達の乳歯にストロンチウム90が蓄積されていると言う事は、通常運転時でも放射性物質が放出される原発の人体への悪影響を、「グループ測定」でも示すことができる、という仮定である。
では、福島原発事故によって放射能被ばくを受けた日本の子供達において、この乳歯の「グループ測定」を行なう意味はあるのだろうか?放射能被ばくの度合い は、放射能プルームや放射能汚染された飲料物や食物にどれほど晒されたかによる。歯の土台は胎児の時期に大部分が形成される。故に、乳歯のストロンチウム 90濃度は、放射能被ばくを胎児として受けた子供において最も高いであろうと思われる。
現に、この米国団体RHRPの代表は、事故後の1年目、2年目で抜け始めた乳歯よりも、事故時に胎児として歯を形成し始めていた子供が6−8歳になって抜け た乳歯の方が、測定値を出しやすいという類の事を言った。それでは、何故、今、日本の子供達の乳歯を集めて測定しようとしているのだろうか?
そもそも、乳歯のストロンチウム測定は簡単ではないと聞く。実際、この米国団体RHRPの代表に問い合わせると、個々の歯の測定は不可能ではないが、大変長 時間かかり、正確な測定値を出すのが難しいと話した。グループごとにまとめて測定をした方が、有意義な値を得られると言う。これはおそらく「研究の目的 に有意義な」値であると言う事だと思う。また、測定料金は、歯が1個でも100個でも同じだと言う。
さらに聞いて見ると、2000年の研究当時には団体として測定器を所持していたが、現在では所持していないと言う。また、研究論文で精密な測定を行なったと 言及されているカナダの測定機関は、今ではストロンチウムの測定は行なっていないと言う。日本から最初の乳歯のグループは送られて来たが、まとまった数が 揃うまで待っており、まだ何も測定を行なっていない状態だと言う。測定予算も定かでない。反対に、研究資金を得る方法を知っているかと聞いて来た。この米 国団体RHRPは、大学の研究機関ではないため、研究費がおりるわけではない。過去の乳歯検査も、一般から寄付を募って賄ったようだ。
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既に放射能被ばくをしている子供達の乳歯のグループ測定によって得られる情報とは何なのか?地域ごとの被ばくの度合いは判明するであろう。それは、疫学調査 として、何かの意味を持つのかも知れない。しかし、子供が被ばくをしてしまったら、親としては自分の子供の被ばく量が知りたいのではないだろうか?知った から何ができると言うわけではないかもしれないが、やはり知っておきたいものだと思う。現時点での、民間人にも可能な個人の内部被ばく検査としては、放射 性物質の尿検査が一番確かであると思う。だが、事故後2年たってからよりも、放射能被ばく後間もない時期にする方が、被ばく量推定には有益であったであろ う。もちろん今でも飲食などを通して放射性物質を取り込み続けているなら、まだ尿検査でも検出でき、内部被ばくの指標として使う事はできるかもしれない。(しかし、そういう継続した被ばく状況が存在する場所に居続ける事自体に疑問が出る。)
「乳歯を保存する会」のチラシには「乳歯をご提供していただいた方の費用はいっさいありません。」と書いてある。また、東洋経済オンラインの記事内では、こ の測定への参加費は無料だと書いてある。測定に費用がかからないとは、測定を希望する側にとっては願ってもいない事である。しかし、この測定に関与する全 てのプロセスが完全にボランディアだというのも無理難題に思える。きょうどう歯科に、測定費用は誰が払うのかを問い合わた。すると、「ストロンチウム検査 は民間だとかなりの費用がかかるが、自分たちがするわけではないので、何とかなると思っている。」という答えであった。何とかなると言う事は、誰かが何とかしてくれる、と言う事だろうか?しかし、米国の団体RHRPにも資金はないと言う話だ。
「乳歯を保存する会」の目的は「放射能が人体に及ぼす害については、長期にわたる調査が必要です。この乳歯のストロンチウム測定はその一助となる取組になります。ぜひ、お子様の抜けた乳歯を保存しておいてください。仮に将来的に何かの疾病にかかられた時には保証をもとめる重要な根拠ともなりえます。」で、要するに、人類における総合的な放射能被ばく研究の一部になれる、と言うことのようだ。どこの誰がどうやって何の研究をするのか、具体的には示されていない。
「集めた地域ごとに解析したうえで、提供いただいた方に封書でお返しする。ただ、高い値が出た場合は、個別の追跡検査も考えている。」と、 東洋経済オンラインの記事内に書いてあるが、これも漠然とした記述である。乳歯を提供する保護者が、その地域ごとの解析の意味を、真に理解し、納得してで の提供なら、良いのであろう。しかし大抵の場合だと「ストロンチウムを測定してもらえる」と言う認識しかないかもしれない。高い値が出た場合の個別の追 跡検査が具体的にどういうものなのかを聞くと、内科的調査だと言う。どういう「内科的調査」なのか、計画があるのだろうか?それとも、その「内科的調査」 をするであろう団体なり機関にお任せだろうか?
このチラシには「自治体や国へ実態を知らせ、検査費用等の働きかけも行なっていきます。」と 書いてあるが、検査をする前に検査費用を集めるべきではないだろうか?それに、被ばく後すぐに、本来行なうべきである血液検査、甲状腺エコー検査や放射性 物質の尿検査を率先して行なわなかった自治体や国が、地域毎のグループ測定の「実態」を知らされたから、突然協力的になると思うのだろうか?
さらに、ホットスポットが多数に存在する地域において、今、乳歯を集める事が、実際にするべきことなのだろうか?
保護者が子供の乳歯を保存する事は大切だと思う。事故当時に胎児でなく、既に生まれている子供でも、歯には血流があるため幾分かの放射性物質の吸収はあるか もしれないから、保存するにこしたことはない。しかし、「無料で測定してもらえるから」と言って、無計画・無予算の米国団体に無責任に引き渡すグループに 渡してしまうのは賢明であろうか?
現時点で乳歯1個の測定が困難であるのなら、同一個人の複数の乳歯をまとめて測定するという選択肢もあるかもしれないし、その方が、個人の内部被ばくの指標 になりそうに思える。今、そのような個人測定に科学的限界が存在するとしても、将来的に、何か新技術が発見されるかもしれないし、今存在する技術が洗練さ れる可能性もある。
抜けた乳歯は、日付と部位を記し、個人で大切に保管しておくことを推奨する。
大変興味深く読ませていただきました。
返信削除ありがとうございました。
自分の子供の乳歯が他の子のと混ぜられて粉砕される、と考えるだけで私は無理です。北は北海道から南は沖縄まで集まる。でも、ある地域は1本かもしれないって、ことですよね.....。決められた地域としても、自分も引っ越すかもしれないし、他のところから引っ越してくる人がいるかもしれないですよね。子供の乳歯大事に自分で保管します。
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